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それから僅か三日後。
江利子と蓉子が結託してしまった山百合会は、ものすごく迅速に動いているようだった。既に音楽祭を開くということで、教員の了承を得てしまったらしい。場所は体育館を開けて貰うだけ、リリアンの生徒以外は基本的に入れないことにすれば警備とかも気を遣う必要なし。予算の問題も、できるだけ学校にあるものを使って限りなく低予算で押さえるということでクリアして。
あんまり大々的なイベントにしたら当初の目的と食い違うし、実行するまでの手数も増えて難しくなるから、シンプルな形にしたとはいえ、ここまでトントン拍子で進むことができるのは、私にしてみれば不思議でならなかった。
良いのは要領か、日頃の行いか。きっとその両方。
*
「今日曲を決めるから、ちゃんと来るように」
いつの間に曲を決めるところまで話が進んでいたのかは分からなかったにせよ、昼休みに江利子が発していた言葉は、確かにそれだけだったはずなのだ。
だけど、薔薇の館のテーブルに鎮座していたのは。
「……あー、そうですか」
ざっと数百枚の紙束。
「どうしたの、白薔薇さま? 曲はこの後決めるのよ」
私を誘いだした江利子が、悪びれず言った。
「まずはアンケートの開票からね」
まあ、音楽祭についてのアンケートとやらを全員に配った記憶はある。だから、騙されたと言うよりも、そこから予想できなかった私が悪いんだろう。
いや、そもそも仕事をしないつもりで来ているのが悪いのか。――今更そんなことに気づいて、苦笑いした。
四月から五月はちゃんと働けていたけど、山百合会と言うよりはお姉さまのため、という気持ちだった。彼女の評価と私自身の評価がリンクする可能性が下がってくると、どうにもやる気が出なくなってきてしまっていた。
……こんなんじゃあ流石に、拾ってくれたお姉さまに申し訳ないな。
「悪いことはできないね。仕事しよ」
「珍しくまじめね」
「いつもそうだと助かるんですけどね」
「祥子。貴方、お姉さまに似てきてるわよ」
「ふふっ、この子は元々こんな感じよ」
蓉子の言うとおり、そんな気も……いや。
「もう少し素直なひねくれ方をしていた気がする」
「……それはどういう意味ですか?」
祥子が訝しげに聞く。
「言葉通りよ。あ、でも今の祥子の方が若干読みにくくて好きだね」
「……聖さまは変わりませんね」
そう言って、少し照れたみたいに俯く。
栞の一件以来、自分ではだいぶ素直になったつもりなんだけどな。それ以前に祥子とそう親しかったわけではないから、仕方ないといえば仕方ないか。
「それじゃ、白薔薇さまはこれ」
おもむろに蓉子が、七等分された紙束を差し出した。
一番上に載ったアンケート用紙は、随分と白かった。……紙の無駄、という言葉が浮かんだ。
「問ごとの回答の数を纏めてね。一人百枚ちょっとだから、そこまで時間はかからないでしょう」
印刷されているのは、変更できない部分の説明の他に質問が三つだけ。
『一・開催時期はいつ頃が良いと思いますか?
六月・七月・八月・九月 上旬・中旬・下旬
二・どれぐらいの長さのイベントにしたいですか?
( )時間
三・その他、何かあればご意見をお書きください』
「三番はどうかと思うな」
「書いてあるものだけ選り分けておけば良いでしょう」
「それもそうか」
「ここで私から、時間短縮のために提案があります」
また江利子か。
冷静に考えれば、江利子が出張っているのはここ数日だけの話なんだけど、普段あんまりないから。
「作業中にBGMを兼ねて、音楽祭で私達が演奏する候補の曲を流しておこうと思うの。異論がある人?」
ちょっと集中力は落ちるかもしれないけど、曲を聴く時間を別に設けるよりは早そうだ。というか、そうでもしないと飽きそうだ。
「良いわよ」「ええ」
口々に頷き合う。
「良さそうね。何か持ってきた人、挙手ー」
「……あら」
唯一手を挙げた蓉子が、気が抜けたとでも言いたげに呟いていた。
「他のみんなは良いの?」
「私はあんまり、そういう音楽は聴かないのよ」
「右に同じです」「お姉さまに同じ」
「私もです」
祥子はイメージ通り。令もまあ、そうなのかもしれない。
ましてや由乃ちゃんに志摩子と来たら、うん。学園祭向けの音楽を聞いてるよーな感じじゃない。
いや、これは勝手なイメージだけど、それを差っ引いても。ヘッドホンから聞こえる爆音に合わせて首を揺らす由乃ちゃんを想像するのは非常に難しい。
「あの、白薔薇さまは?」
無意識に見ていたらしい。由乃ちゃんがおずおずと尋ねた。
「え? 私は……そう、特に持ってくる曲はないかな」
「白薔薇さま、忘れてたんじゃないでしょうね?」
「忘れてないよ、紅薔薇さま」
最初から聞いていなかったのは、忘れたことにはならないよね?
「なら、良いのよ」
安心したような微笑みが眩しかった。
……心を入れ替えよう、うん。
「じゃあ、紅薔薇さまのを先にかけましょう」
「ちょっと待っていてね」
いつの間にか、机の上にはラジカセが置かれていた。どこから借りてきたのやら、手回しの良いことは確かだ。
「先に言っておくけれど。話題性重視で選んだから、ちょっと刺激が強いかもしれないわね」
話題性、ねえ。どういう話題性なんだろうか。
再生ボタンが押されて十数秒後、私達はその意味に気づいたのだ。
歌詞が妙に生々しく過激だった。
抱いて壊して誘って潰して首を一緒に沈めたい、というのは確かに話題性十分だ。
――それも、私がそれを歌うというのは。
「……お姉さま。正気ですか?」
最初に文句を言ったのは、祥子だった。
「言ったでしょう。刺激が強いと」
「あの、一応学校のイベントですよ?」
続いて令。
「だからこそ、と考えたのだけれど。ちょっと無茶すぎたかしらね?」
……羽目の外し加減が分からなかった、ということだろうか。にしても方向性を誤っているだろう。
「ところで紅薔薇さま。貴方、こんな趣味だった? 誰かに影響でも受けた?」
江利子が誰か、というところで私を見たような気がする。
思い過ごしだろうか?
「そうね。小学校の時、同じクラスの子から借りたままになっているのよ」
「蓉子なら、草の根分けてでも返しそうなもんだけど」
「そうなのよね。まさか、借りてすぐ学校に来なくなって、そのまま転校するとは思わなくて」
……聞くべきじゃなかったのかな、って一瞬思った。誰も何も言わないと、音楽がやけに高らかに響く。二番ではキスをして悶える歌になっていた。
私にこれを歌わせようというのには、若干の悪意をも感じる。何か一言言ってやりたいが……なんだろう。
「ふふっ」
沈黙を破ったのは、江利子のかみ殺したような笑い声だった。
「何がおかしいのよ」
「昔から、手間のかかる人が好きなのねえ」
「誰のことですか」
手間のかかる妹であるところの、祥子が反論する。
「あっはっは、自分で分かってるだけ誰かよりマシよ」
今度のは錯覚じゃないな。
「江利子よ。なぜ私を見る」
『手間がかかる』ことは自覚しているけどさ。
「さあ?」
……一発殴ってやったら、どんな顔するだろうか。
「あの、紅薔薇さま」
私の不穏な考えを察したのか、単に誰も何も言わなくなったからか、志摩子が口を開いた。
「これでは、薔薇の館と生徒を近づけるという当初の目的は果たせないように思いますが」
「あっ」
今、蓉子の頭上に北極星ぐらい良く光る電球が見えた。
「忘れてたのっ!?」
「どんな曲なら面白いかを考えているうちについ、ね。志摩子の言うとおりだわ」
……脱力した。私の過去へのあてつけ、とか考えていたのは無駄というか自意識過剰の産物というか、であったわけか。
「蓉子。それじゃ目立つんじゃなくて、悪目立ちだよ。それもおそらく、ボーカルであるところの私が」
「ふふっ、貴方なら引き受けてくれそうだけど」
「ご冗談を」
「紅薔薇さま、このMDは全部こんな感じなの?」
「そうね。止めちゃっていいわ」
「私のも、若干話題性に寄ってる部分はあるんだけどね」
そう言いながら、今度は江利子が鞄からケースを取り出す。
……今度は何が始まるんだろうか。
電子音っぽいイントロが流れ出したかと思えば、いきなり『キッス!』とか言い出した。
ここで投げキッスでもしろと言うのだろうか。
外部の生徒は入れないから、数百人の迷える子羊達に向かって。うん、純粋に楽しそうだ。笑えそうとも言う。
その後もまあ、ボーカルが若干賑やかしすぎるとは言え、真っ当なサビが繰り広げられていた。さっきの曲よりは、音楽祭に相応しいと言えよう。
『すーきすきすきっ☆』
間奏に入った瞬間、音の空間に☆印が飛び交っていた。何度も何度も繰り返し。歌詞カードを見たわけじゃないけど、ここはきっと☆印だろう。
そうか、私がこれを歌って体育館に☆を飛ばしまくれ、と。
「黄薔薇さま……正気ですか?」
祥子がさっきと同じ突っ込みを入れる。さっきとは全然違う意味で。いや、彼女にとっては想定の範囲外から突如飛来した未確認物体であるからして。同じことなのかもしれない。
祥子が文句を言っている間にも、☆印だらけの歌が流れ続けていた。そうか、私たちでこの曲を歌えば……子羊達の前に飛び交う☆☆☆。
想像しただけで、面白くなってきた。
「ふ、くくっ、あっはっはっはははっ、すっごい面白そうじゃないの、江利子」
「白薔薇さまは気に入ったみたいよ?」
「ですが。先ほどご自分でおっしゃられた悪目立ちなのでは?」
祥子があくまで食い下がる。
「こういう悪目立ちなら、私はしても良いけど。だって、合法的に数百人に投げキッスできる機会なんてそうないじゃない?」
「……白薔薇さま、そんなこと考えてたのね」
お姉さまの蓉子は既に、諦めたようにあきれ果てていらっしゃる。
「まあとりあえず、まだ五曲ぐらいあるから。その間、仕事しましょう?」
「これ聞きながら?」
「そうね」
集中もへったくれもないな。まあ、良いか。
「念のため聞くけど。全部こんな曲じゃないわよね?」
不安そうな蓉子。そりゃそうか。全部これだったら、これを音楽祭でやることになってしまう。
私としてはそれでも一向に構わないんだけど。
「大丈夫。傾向は変えてあるから」
傾向が違うだけで根本は変わらないのか。
アンケートを集計する作業に戻って数分。
次の曲は、さっきほど奇特ではなかった。ただし、ボーカルが男になってしまった。まあ、逆――女声の曲を男がやるのに比べれば、そこまで問題はない。
歌詞を聴いてみると、ビルに落書きをしている不良少年の魂の叫びだった。突飛さという面では、確かに根本は変わってない。ただし、投げキッスはできないな。
……考えているうちに手が止まっていた。作業中に音楽を聴くのは、どうも性に合わないらしい。次の人はなんだって?
『薔薇さまの歌をぜひ聴きたいっ』
ありがとう、でも滅茶苦茶なことになるかも。と、名前も分からぬ彼女に心の中で告げた。
次の曲は、また毛色が違った。
澄んでいてかつ力強い声をした、オペラ歌手の如きボーカル。その上に静かなピアノでも乗ってきたら、普通に綺麗な曲なんだろうけど、背後で流れているサウンドは明らかに異質だった。歪ませたギターに、存在感を主張してはばからないドラム。途中からは、悪魔の叫びの如き男声まで絡んできた。ボーカルが浮きそうに見えてそうでもないから不思議だ。
ただ、とりあえず言えることは。
この歌唱法を身につけろというのは無茶だ、ってことだ。詞も英語だし。
「白薔薇さま。手が止まっているけれど、気になるのかしら?」
江利子が目ざとく、私の動きに気づいていた。
「気にはなるけど、この声は出ないわよ。合唱部員でも連れてくるの?」
「そこは努力でカバーしてちょうだい」
「そうね、男の方を黄薔薇さまがやるなら、考えても良いわ」
それを聞いた江利子が、目を閉じる。
想像しているらしい。
さっきの声でがなっている江利子自身を。
あるいは、さっきの曲を演奏している山百合会の面々を。
もしかしたら、それを見ている生徒達も。
再び目を開けた彼女は、力強く頷いた。
「やめましょう」
一瞬、聞き間違いかと思ったけれど。
「やめるんかいっ」
やっぱり突っ込むことにした。
「ええ。だって、私あんな声出ないわよ?」
しれーっと、矛盾したことを言う。
「努力でカバーするんじゃなかったの?」
「白薔薇さまがやりたそうだったからよ。私は必ずしも、この曲でなくてもいいもの」
「あー、そうですか」
相変わらず、何がしたいのやらわからない。
不毛な会話の間に、また曲が変わっていた。
嗄れた声のラップ。英語っぽいけれど、確証はない。背後のトラックも何の楽器かいまいち分からない。
「黄薔薇さま。これ何の楽器でやるの?」
「分からないわね」
分からない、って。自分で選んだ曲にしちゃあ適当な物言いだな。
「……あの、何を基準に選曲したわけ? さっきから、まるで統一感がないんだけれど」
「兄達に何か面白い曲はないか聞いたの」
ああ……そういえば江利子の家はやたらと年の遠い兄貴が何人かいるんだっけ。その結果がこれか。
「貴方、面白いというところだけしか伝えていないんじゃないの?」
ずーっと仕事をしているように見えた蓉子が、鋭く突っ込みを入れた。
「一応、私達が演奏するとは伝えたわ」
統一感がないのは理解できたけれど。
「無茶な曲が多くない?」
今かかっている曲なんて、まさにそうだ。英語でラップなんてのは、普通の日本の女子高生が一朝一夕にできるもんではない。
「妹達の能力を高く見積もりすぎたんじゃないの? それか、貴方がアメリカ人だと勘違いしているとか」
「誰がアメリカ人よ、誰が。それに比べるとデコの広さは、特に能力には関係がなくて良いわね」
「ふふっ、羨ましい?」
「いいや、全く」
気づいたら、私達二人は大笑いしていた。
全く、何でこんなことになってるんだか。だけど全然嫌じゃない。
「そこの薔薇さま二人。労働しなさい」
「はい」「はい、はい」
二回言ったのが、私である。
静かになると、『れぺぜん、れぺぜんっ』と繰り返すBGMが、やけにしつこく頭の中に渦巻いた。
……本当は『Represent』なんだってのは分かるんだけど、私が歌ったらたぶんれぺぜんだろうなあ。まあ仕方ない。
「……というか、これ歌わせるつもりだったのよね」
「面白そうでしょう?」
面白ければ何でも良いらしい。ワイドショーを見飽きた主婦みたいだな、と思いながら作業に戻った。
ええっと、次の子羊さんは何とゆーているのかな。
『どれぐらいの長さが良いですか?
( 二四 ) 時間』
「長さの上限ってどれぐらいなのかな、紅薔薇さま?」
「六時間ぐらいじゃないの? 夏の暑い盛りだからね」
「二十四時間、だってさ」
「……数えなくて良いわよ」
と言われたので、書き留めておくことにした。
二十四、横棒一本、と。たぶんこの横棒が「正しい」という字になることはないだろう。
「本気か冗談かの判断が難しいわね」
確かに。そう言う江利子なら、本気で二十四時間とか言い出しかねない。
「本気だとして、彼女は夜通し騒ぎ続けたいのかね」
「近所から苦情が来ますね」
令が久々に喋った、ような気がする。
「ふふ、たのしそ」
「お姉さま、まさか――」
「黄薔薇さま。無理だからね」
「そうかしら? 三日ぐらいに分ければ、そうでもないと思うわよ」
「あのねえ。予算が足りないわ」
「ちぇっ」
江利子が子供みたいにすねている。部屋から一瞬だけ、物音が消え失せた時。
「あなたが――蜘蛛だったのですね」
唐突に男の声がして、「え」と思わず声をあげたのは、由乃ちゃんだった。
私も一瞬驚いたが、曲の一部だ。にしても、どっかで聞いたような台詞だな。
男女のボーカルは二人とも、少しばかり演技過剰。背後の曲もそれに相応しく、やたらと賑やか。雰囲気が若干暗いが、お祭り向きと言えるかもしれない。
桜の下でどーのこーのと歌っている。ふっと思い出したのは、春の始めに見た景色。そこに立っていたのは……。側にいる少女の姿を、目を閉じて思い出す。大して前のことでもないのに、懐かしいような錯覚を覚えた。
ドラムが激しく打ち鳴らされている。そっか、この曲をやったら……志摩子がドラムを叩きまくる、ってことになるのか。紙でできた桜吹雪ぐらい散っていても良いかもしれない。
ふわふわの髪を振り乱して、ピンクの破片を身に浴びながらドラムプレイする志摩子。いったいその時、彼女はどんな表情を――。
「白薔薇さま、寝ないでよ?」
蓉子の冷たい視線が見ていた。
「そんな顔でないのは確かだな」
寝てないわよ。
「何がそんな顔じゃないのかしら?」
あ、逆だった。
「私の愛した貴方は――そのような顔ではありませんでしたよ、マドモアゼル?」
「な……」
下級生達は呆然としている。全く、まじめなんだから。
そしてなぜか、蓉子の顔が真っ赤だ。
「あっはっはっは……あれ、紅薔薇さまどうしたの?」
江利子だけがお腹抱えて笑い転げていた。うむ、ボケた甲斐があるというものだ。
「い、いえ、何でもないわ。働きましょう」
「えー、つまんない」
軽口を叩くと、まだ顔の赤い蓉子が答える。
「つまんなくないのっ!」
幼児退行でも起こしたような彼女を見て、江利子がまた笑いをかみ殺していた。にしても、変なの。
「分かりましたよ、マドモアゼル」
そうこうしているうちに曲が変わっていて。
さっきのラッパー以上に嗄れたような声で歌う男。歌詞曰く、十字架が折れたけど生きているらしい。その背後では、煌びやかで疾走感のある曲が流れていた。
「……ようやく音楽祭っぽい曲ね」
「あ、これで最後よ」
「なら、この曲にしたいね」
歌うならこの曲しかないような気がした。ただの消去法のようだが、必ずしもそうでもなかった。何でだか、心の琴線とやらに触れてしまったらしい。
「そうね。この曲なら確か人数も丁度五人だし、良いと思うわ」
ちょっと待て、人数って最初に考えておくべきじゃないのか。
「私も、この曲が良いと思うわ。何しろ、締めに相応しいじゃない」
蓉子から、聞き慣れない単語が出てきた。
「あれ? 私達って締めで決まってたの?」
「何も聞いていなかったのね、白薔薇さま」
いつものように蓉子に呆れられて、なぜか少しだけ安心した。
「一番最後に出てきた方が、きっとみんな盛り上がれるでしょう?」
「確かに。じゃあ、私らトリか……楽しそうじゃない」
やっぱりやろうかな。子羊達に投げキッス。
「楽しんで貰えれば、来年以降も続けていけるわ」
「来年、ねえ」
祥子たちが薔薇さまになって……って、その時白薔薇はどうなってるんだろう? ええっと、私が妹を作ればその子が白薔薇さまになるけれど……そんなの、今だって想像つかない。
「そ。だから、妹作りなさい?」
私の心の中を読んだように、江利子が言う。
そう簡単にいけば、苦労しないだろうが、と言う本音はおいといて。
「ふふっ、考えておくよ」
「ところで、祥子と志摩子はこの曲で異論は?」
「いいえ。やりましょう、お姉さま」
「私は、構いません」
祥子が何か言うかな、と思ったが普通に納得していた。むしろ、何か含むところのありそうなのは志摩子の方で。
その言い方だと、構わなくない人がいるみたいだ。
「志摩子、良いのね?」
何となく気になって、私は念を押していた。たぶん、答えは変わらないけれど。
「……ええ、白薔薇さま」
ただ彼女の瞳が、どこか不安げに揺れているように見えた。……どうしてなんだろう。
「それじゃ、決まりね。由乃と令も、文句ないわね?」
蓉子が有無を言わせないように尋ねる。
「「はい」」
綺麗にハモっていた。流石に息が合っている。
とっても、微笑ましくて、結構、羨ましくて。
少しだけ、胸が痛んだ。
私には永遠に持ち得ない関係が、そこにあったから。
作ることはできても、壊してしまうから。
私は、きっとずっと一人なんだろう。